水中ドローンは、実用化へと移行しつつある空中ドローンに4〜5年遅れる形で、いま本格的なビジネス活用が始まろうとしています。
KDDIの世界初の水空合体ドローンの発表もあり水中ドローンと飛行ドローンの可能性は広がりつつあります。
水中ロボットのROV、AUVの分類から、水中ドローンの定義、役割、効果、ビジネス市場規模、課題と今後の展望まで、水中ドローンに関する基礎知識をまとめて徹底解説します。
Contents
そもそも水中ドローンとは
水中ドローンとは、水中に潜水・潜航して自由に移動しながら撮影などの作業ができる水中ロボットの一種で、小型のROV(Remotely Operated Vehicle)を表していることが多いです。
日本においてもここ2〜3年で、産業利活用が促進されてきました。
水中ドローン利活用の可能性として期待されているのは、潜水士の代替やサポートです。
水中撮影はもちろん、水中構造物の点検、調査、工事、水難救助、水産業など、潜水業務はさまざまな産業で生じるが、人口減少による潜水士の人手不足と担い手不足は深刻です。
水中ドローンは、潜水士の負荷軽減や安全確保をはじめ、潜水業務コストの削減、取得データの有効活用などの導入メリットが注目されています。
複数の回転翼から自由に潜水・潜航可能な機体や高画質・高精細カメラを搭載した機体、潜水可能深度が100mを超える機体など、日々進化している性能は、個人で楽しむ趣味の領域を超え、新たな水中ビジネスを生み出すポテンシャルを持っています。
水中ドローンの役割
水中ドローンの役割は、大きく分けて2つあります。
1つは、人間の目としての役割です。
例えば、水中ドローンにカメラを搭載すれば、水中映像や画像の撮影、リアルタイムでのデータ確認ができます。
また、水中は深く潜るほど太陽光が届きにくく、水が濁っていれば何も見えません。
水中ドローンなら、カメラにLEDライトを搭載して光量を上げたり、音波や赤外線を利用して構造物を検出するなどの手法もあるため、人間の身体能力を拡張した運用も可能となるでしょう。
もう1つは、人間の手としての役割です。
アームやマニピュレータを装備し、海水や堆積物などの採取や水中生物の捕獲に活用することができます。
しかしながら手の役割はまだ限定的で開発の余地は大きいとされています。
水中ドローンの効果
水中ドローンを導入することで期待される効果は、潜水士の負荷軽減や安全性向上、コストの削減、作業性の向上などであります。
特に、水中をただ見てくるだけなど簡易な潜水業務を水中ドローンで代替する場合や、水深40m以深、寒い季節や濁度の高い場所など、人間が潜ることが厳しい環境においても水中ドローン導入の効果は際立つと考えらています。
水中ドローン利活用が進む領域
さまざまな産業で利活用が進みつつある水中ドローンですが、具体的にいくつか領域を紹介します。
1つは、土木建築やインフラ維持管理の水中構造物の点検ニーズは、施設の老朽化を背景に上がり続けています。
そして、水産業では沖合の定置網の破網調査、養殖場の維持管理での活用が始まっています。
水難救助においても、人間では厳しい環境でも何度も潜航できる水中ドローンのポテンシャルは注目されています。
ドローンによる海鳥探知
従来、中規模のカツオ漁船などでは、魚群を発見するためにレーダーを用いて魚を狙う海鳥を探知し、該当の場所に赴いて漁を行うスタイルが一般的です。
ただし、実際に魚群を確認するためには、船を現場まで移動させて人が目視する必要があります。
海外の大規模なカツオ漁では、ヘリコプターを使って魚群を発見する方法を実施しているのですが、コストの問題もあり導入できる国内の業者はほとんどいない状況でした。
そこで、ヘリコプターに替わる魚群を発見する方法として注目されているのがドローンの活用です。
遠隔操作のドローンが海鳥を探知して魚群を発見できるため、効率よく漁を行うことが可能になります。
これによって、人件費や船の燃料費などの削減につなげることができるとされています。
ドローンで撮影した映像から赤潮や病気の早期発見
漁業では赤潮や水カビなどが発生することで、事業に深刻なダメージを与えるケースも多いです。
そのため、養殖などを行っている企業では、定期的に養殖場を監視する必要があります。
しかし、大規模な養殖場を持つ場合、管理する業者の負担も大きく、赤潮や水カビの発生を未然に防ぐことが難しい状況でした。
そこで、ドローンで空撮した映像をAI解析することで、赤潮や水カビの初期症状を早期感知する実証実験が行われており、被害を最小限に抑えるための有効な手段として現場への本格導入に期待が集まっています。
水中ドローンによる定置網の確認
定置網漁を行う業者が、水中ドローンを有効活用する事例を紹介します。
定置網漁を行う業者にとって、定置網のメンテナンスに伴う確認は大きな負担がある作業です。
もし網が破損していた場合には、早急に修復する必要があるのですが、定置網の範囲は非常に広く、人が水中を潜って確認すると大きな負担がかかります。特に冬場は水温が低くなり、厳しい作業になることは想像に難くないでしょう。
一方、定置網漁は基本的にどのような魚がどれだけ網に入っているかについては、網を上げてみなければ分からないというデメリットがあります。
そのため、ときには期待した取れ高が得られない場合もあるでしょう。
こうした課題を解決するために、水中ドローンの活用が始まっています。
例えば、カメラ付きのドローンを遠隔操作することで、定置網の破損個所を見つけたり、定置網の中の状況を事前に確認したりすることが可能です。
定置網のメンテナンスと漁の取れ高をコントロールできることで、生産性を高めることができるでしょう。
養殖用生け簀内の確認や清掃
養殖を営む業者においては、生け簀のメンテナンスや魚の体調管理などの作業をすべて人が行う必要があり大きな負担になっていました。
しかし、水中ドローンの有効活用によって、生産性を向上している業者が現れはじめています。
最近は水中ドローンの技術が進化し、水深100mまで潜れるものや、6時間程度連続稼働できるものも登場しています。
また、4Kで収録可能なカメラや高機能な照明を搭載することで、水中の様子が手に取るように把握できることはもちろん、ロボットアームの活用によって幅広い作業の実施が可能です。
水中ドローンは主に生け簀を囲う網の状況を確認して痛んだ箇所を早期発見する用途や、魚の健康状態を把握する用途で活用されています。
魚の死骸やごみなどをロボットアームで取り除ける点も大きなメリットだといえるでしょう。
ドローンの活用で漁業の生産性向上に
空や水中という、人だけではアプローチが困難な環境でも、ドローンを活用することでスムーズに業務が進められるだけでなく、生産性を向上することもできるでしょう。
まだまだドローンを活用している業者は少ないと思いますが、漁業で急務な課題となっている省人化を解決する有効な手段の人つといえるため、導入を検討する価値は十分あるでしょう。
水中ドローンの課題
水中ドローンは技術的にも環境的にも発展途上であり、業務活用においてはさまざまな課題が存在します。
(1)法規制が存在しない
水中ドローン自体を対象とする法規制はない。ルールが存在しないため、ビジネス活用に積極的に取り組めない実情があります。
(2)電波
水中では電波が使えないため、GPSによるポジショニングができず、位置情報の把握が困難です。
(3)光量
水中に届く太陽光は少なく、機体を目視しながらの操縦はほとんどできない。
(4)濁度
水中は濁っているため、カメラ映像を確認しながらの操縦や撮影が難しい。
(5)水力・潮力
水中の水の流れは地上から予測しづらく、特に海では潮力があり予測が困難です。
世界初水空合体ドローンの開発
KDDI、KDDI総合研究所、プロドローンは、ダム・港湾設備点検や水産漁場監視などにおける省人化・安全確保を目的として、点検場所まで自律飛行する空中ドローン (親機) に、映像伝送および音波での測位が可能な水中ドローン (子機) を搭載した「水空合体ドローン」 を世界で初めて開発し、2021年5月31日に技術実証を完了しました。
近年、水産養殖や水域インフラの点検分野において、少子高齢化などの理由から、人手不足が深刻な問題となっています。
水中での作業支援が可能な水中ドローンの需要が高まる一方、従来の水中ドローンでは、点検場所まで船を出す必要があります。
この水空合体ドローンでは、スマートドローンプラットフォームの活用により、船を出すことなく、点検場所までドローンが自律飛行し、着水後に水中ドローンを分離し、遠隔で水中の点検が可能となります。
今後、湖沼や海中での作業などの分野で、ドローンの新たな市場の創出が期待されます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
水中ドローンは飛行ドローン同様、人間では厳しい環境や人手不足といった課題において解決できるポテンシャルがあることが分かります。
一方で、水中ドローンビジネスがより発展するためには、まずは「水中ドローンはどこでどう役立つのか」といった用途開発や、「どのような業務にはどのような機体性能が必要か」といった機体性能評価が進むことが必要です。
長期的な視点に立つと、脱炭素社会実現に向けた洋上風力発電の開発や、水素など次世代エネルギー関連インフラを港湾に整備する動きなど、インフラ設備開発、点検、保守における水中ドローンの利活用需要は右肩上がりに伸びると見られています。
乱獲や水温上昇を受けて水産資源の保護が叫ばれているが、日本は海洋国家であり水産加工品の輸出を促進する方向で政策も動いている。
水中にはさまざまなビジネスチャンスが潜んでいる。
水空合体ドローンの開発とともに空と水中の融合などドローンのポテンシャルが利活用されることは広がり続けるでしょう。
それではまた。